明日からロッシーニの巨匠と

12/1の演奏会のために、指揮のA.ゼッダ先生が来日されました。

 

 

マエストロの「米寿記念コンサート」ということで、藤原歌劇団のソリスト&合唱団と、これまでオペラ公演などで共演を重ねてこられた東フィルさんとで、宗教曲「スターバト・マーテル」とカンタータ「テーティとペレーオの結婚」の2作品を上演します。もちろん、どちらもロッシーニ作曲=ゼッダ先生のご専門です!

 

 

私は「テーティとペレーオの結婚」のペレーオ役を歌いますが、すでに演奏経験のある「スターバト・マーテル」や「小荘厳ミサ曲」といった宗教曲とは異なる分野の”カンタータ”ということで、明日からいよいよ始まるゼッダ先生とのリハーサルの中でたくさんのことを学びたいと思います。

 

 

初演はちょうど200年前、あの「セビリアの理髪師」や「オテッロ」が作曲されたのと同じ年の1816年だそうで、楽譜はすみずみまで例のロッシーニの代名詞とも言える”アジリタ唱法(細かい音符の羅列を鋭敏に歌うこと。コロラトゥーラとも。)”が散りばめられている難曲です!上演自体も珍しい作品なので、この貴重な機会に感謝しつつ精一杯歌いたいと思います。

 

 

ご存知の方も多いと思いますが、アルベルト・ゼッダ先生は指揮者としての存在以上に、ロッシーニを中心とするベルカントオペラの研究者及びその時代の楽譜の採集・編纂・批判校正版の出版に多大なる御功績を重ねてこられた世界的権威です。先生による1960年代末期から始まったロッシーニ再評価の流れは”ロッシーニ・ルネッサンス(復興)”として欧米を席巻し、結果的に1970年代以降のオペラ歌手の声楽技術や発声法にまで影響を及ぼしたと言われています(膨大な数の歌手や指揮者がゼッダ先生が音楽監督を務める「ロッシーニ・オペラ・フェスティヴァル」でその厳しい薫陶を受け、ロッシーニやベルカントの歌唱様式を学んで世界的デビューを果たしてきました)。それにより、それまでは演奏困難なゆえに埋もれていた偉大な作曲家たちの作品が埋蔵金の如く次々と発見・復活上演され、あるいは既存の有名作品も当時の慣習であった大幅なページのカットや歌手の技術不足による楽譜の改訂などが見直され、作曲家の書いた本来の姿を聴衆に披露することが出来るようになったのです。つまりゼッダ先生の御功績はロッシーニのみに限定されず、より多角的・包括的に現代のオペラ界及び一般聴衆に多大な影響を与え続けているように思います。(日本ロッシーニ協会事務局長・金井紀子氏著「ロッシーニ・オペラ・フェスティヴァルとその今日的意義」(ネットで閲覧可能)に詳しく掲載されています。)

 

 

ところで、今年の日生劇場オペラ「セビリアの理髪師」(6/13〜9/27 全15回公演)で指揮された園田隆一郎さんはゼッダ先生の”内弟子””愛弟子”としても知られる貴重な日本人指揮者で、その日生劇場公演でも例えば伯爵の大アリアを全公演で演奏したり、慣習でカットするレチタティーヴォ部分をあえて演奏したりと、正にゼッダ先生の後継者・伝道者として私たち若い日本人歌手や公演関係者にそのイデオロギーや概念、現代の世界基準の演奏様式を伝えて下さる大切な存在です。同世代のオペラ界の人間として、欧米の最先端の上演状況から大きく遅れを取るとされる日本人が世界基準の上演レベル、歌唱技術に少しでも近づく拠り所として、園田さんの表に見えない献身的な御貢献にもこの機に改めて感謝し、またこれからも日本のオペラ界をリードし続けていって欲しいと切に願っています。(今回の公演にも指揮者補佐として全てのリハーサルに帯同・参加して私たちを支えて下さっています。)

 

 

ゼッダ先生指揮による上演演目はそれぞれ日本で聴ける最後となる可能性が高いこともあり(もちろんいつまでもお元気で、また再演されることを望んでいますが!)、特にロッシーニ作品上演には絶対的な評価が伴うことから、個人的にはこんなにモチベーションの上がる機会はありません!

 

 

皆様にも是非、この貴重なコンサートをお見届け頂けたら幸いです。一緒にゼッダ先生をお祝いしましょう!

 

(※写真左上はイタリアで購入したゼッダ先生の著作「ロッシーニの余談」(邦題は拙訳/リコルディ出版)。約190ページのどこにも「挿し絵」や「写真」は無く、ひたすらイタリア語の文章が続きます…笑

 

右上はゼッダ先生による直筆のバリエーション楽譜。元の楽譜の何倍も難易度が上がります…泣

 

下は園田さんとのリハーサル。左はジョーヴェ役の角田和弘さん。)