「白狐」NY公演レポート⑧

まだまだNYレポートは続きます、初めてメトロポリタン歌劇場に行きました!

 

オペラ界の住人にとって、ニューヨークと言えばメトロポリタン歌劇場!一般的にはブロードウェイのミュージカルの方が有名だと思いますが、我々オペラ関係者にとってはこのメトロポリタン歌劇場=通称”MET(メット、メト)”こそ、スカラ座やウィーン歌劇場などを経て最終的に目指す、最高峰のオペラの舞台として一度は訪れたい場所なのです。(とは言え、自分はスカラ座の方が好きですが!笑)

 

 

往年のテノールの大歌手たちは〜カルーゾもジーリも、デル・モナコもコレッリもディ・ステーファノも、そしてパヴァロッティも〜みんな、まずはイタリア国内で名を上げ、続いてヨーロッパ各地でそのスター歌手としての評価を決定的にした後には、最終的にはるばるアメリカに渡って、このメトで世界最大の賞賛と世界最高のギャランティ(出演料)を手にすることが「王道」とされていました。イタリアの劇場とメトではそのギャランティは大きく異なったそうで、むしろビッグ・スターになった彼らにふさわしい金額を払える劇場がイタリアや欧州には存在しないことから、彼らはより大きな名声と出演料を得られるメトでの出演を選択することになったそうです。現代なら飛行機で数時間ですが、1920〜50年代くらいまでは船で何ヶ月もの長旅で体や声への負担も大きかったはずで、それでも彼らはメトで歌うことを望んだということですね。ここにも”アメリカン・ドリーム”があったのでしょう!

 

 

メトは3,800席!新国立劇場の1,800席のなんと2倍以上、日本国内有数のビッグサイズを誇る愛知県芸術劇場大ホールでも2,500席なので、それよりさらに1,000席以上も大きい超巨大会場です。今回の旅の全行程で終日オフの日は「白狐」公演の翌日の1日だけということで、せっかく行くならその劇場のスケールの大きさを存分に感じたくて、最上階の5階の後ろから数列目のチケット(最も安い価格帯でしたが、日本円で12,000円くらい)を購入しました。舞台はよく見えましたがやはり歌手はホントに小さく、例えば細かい表情の演技や指先のジェスチャーまでは目で確認出来ない代わりに、体全体での大きな演技や、声そのものでの表現の変化で伝えようとする歌手たちのアプローチをしっかり感じることが出来ました。映像の時代到来と共に歌も演技もどんどん細やかになっている=表現が小さくなっているオペラ界の潮流にあって、おおらかなメトの上演は自分にとってはとても好ましいものでした。(声も十分届いて来ましたよ!)

 

 

終演後のカーテンコールでは本場のスタンディング・オベーションに参加!満席の5階の後ろに至るまで、全観客が一斉に立ち上がって拍手する景色は壮観でした!この日の演目がオペラ・ブッファである「セビリアの理髪師」だったこともあって上演中も絶えず笑い声や拍手が沸き起こり、リラックスしてステージを楽しむ客席の様子は日本のそれとは全く異なっていて、「これぞエンタメの中心地ニューヨーク!」という雰囲気でした。実際の劇場内で鑑賞出来たからこその貴重な体験でしたね、本番翌日の疲れも忘れるほどの刺激的な時間となりました。

 

 

イタリアの伝統を守るスカラ座とは全く違う、華やかでゴージャスなメトならではの劇場文化に触れて大満足。知らず知らずのうちにポジティブな気持ちにさせてくれるニューヨークの街の雰囲気そのままに、「よーし、これからまた頑張るぞ」とウキウキした気分でニューヨーク最後の日をメトのオペラ鑑賞で締めくくりました。

 

 

 

(※写真左上:観客退場の最後の1人まで残って撮影。   左下:劇場入口前に掲示されたこの日の演目「セビリアの理髪師」のポスター。   右上:CDやDVDのジャケットでよく見たことのある、劇場正面の景色。噴水の水芸(ウォーター・アート)が人々を楽しませてくれていました。   右中:スマホ撮影OKのカーテンコールの様子。劇場全体のスタンディング・オベーションは圧巻でした!   右下:快晴の別日に訪れた時の自撮り。)