リサイタルへの誘(いざない) 〜14/18〜

プッチーニの3曲目はピアノソロで歌劇「マノン・レスコー」の間奏曲です。

 

 

プッチーニがオペラ作曲家としてデビューから3作品目にして初めて大きな成功を収めたのが歌劇「マノン・レスコー」でした。18世紀のフランスの小説家アベ・プレヴォーの原作で、騎士デ・グリュー(テノール)が美しい娼婦のマノン(ソプラノ)の魅力に堕ちていくいわゆる”ファム・ファタール”の物語の先駆と言われる小説です。起伏に富んだ劇的な内容がオペラ向きなのか、プッチーニが作曲する前に既にマスネやオベールが同名のオペラを作っていました。

 

 

初演は1893年で、処女作「妖精ヴィッリ」からおよそ10年の時を経ての成功作であり、この後に続く「ラ・ボエーム」「トスカ」「蝶々夫人」という傑作で共に仕事をすることになる台本作家の二人(ルイージ・イッリカとジュゼッペ・ジャコーザ)との出会いもこの「マノン・レスコー」でした。また偶然にも、このオペラ初演と時を同じくして、偉大な先輩作曲家ヴェルディの最後のオペラとなる「ファルスタッフ」が初演されています。結果的にこのタイミングでイタリアオペラ作曲家の新旧の主役が受け継がれることとなりました。

 

 

オペラは全4幕で、この間奏曲は第3幕と第4幕の間に演奏されます。「カヴァレリア・ルスティカーナ」や「カルメン」などと同じく、単独でオーケストラのコンサートでも演奏される機会がある、オペラ間奏曲の人気作品の一つです。

 

 

オペラにはオーケストラだけで演奏されるものとして他にも「序曲」「前奏曲」「バレエ曲」などがあるのですが、「間奏曲」はその中でも相対的に穏やかでテンポもゆっくりした曲想が特徴です。これは聴衆の興味関心を煽る他の曲と異なり、むしろ大音量の劇的なシーンで幕を閉じた直後に観客を一旦落ち着かせる、あるいはストーリー的に仕切り直す効果を求められるためと推察しますが、この「マノン・レスコー」の間奏曲もその典型的な曲の構成となっていると思います。(そしてもちろん、天才プッチーニの可憐み溢れる哀愁を帯びた音楽は全く独特な魅力を持っています!)

 

 

今回2つあるピアノソロ曲のうち、こちらは秀平さんに自分からリクエストさせてもらいました。プログラムの構成上でイタリアオペラとフランスオペラの区切りとして、という意味ももちろんありますが、それ以上にこの美しくも情熱的な名曲を秀平さんのピアノで是非聞かせて欲しい、という甚だ個人的な希望によるところが大きな理由です!ご本人には快く引き受けて下さり、感謝しています。

 

 

冒頭と結末のpp(ピアニッシモ=弱音)の部分が特に聴きどころです、どうぞ秀平さんの弾くピアノの音色をじっくりとご堪能下さい!

 

 

 

(※写真右上:このオペラのDVDのロマンティックなジャケット。プッチーニはこの作品以降、ヒロイン役はソプラノ、その恋人役はテノールと声種を固定しているため、有名なアリアや愛の二重唱はほぼ全てソプラノとテノールの声で歌われることとなる。現代まで続くこの作曲家の世界的人気はオペラ文化全体の”看板”ともなり、結果的に世間一般でのオペラ歌手のイメージとしてソプラノとテノールの声や外見(ロマンティックなデュエットの姿など)が真っ先に浮かぶ要因でもあると思う。  写真右下:カラヤンとベルリンフィルによるオペラ間奏曲アルバム。YouTubeではカラヤンがこの曲をコンサートで演奏している動画も視聴出来る。)