リサイタルへの誘(いざない) 〜13/18〜

歌劇「ジャンニ・スキッキ』はプッチーニが完成させた最後のオペラです。

 

 

1918年に初演されているので今から100年と少し前の作品ですが、もはやクラシックの分野では新しくも感じる西暦ですね。この作品のあとプッチーニは有名な「トゥーランドット」の作曲に挑みますが未完で亡くなったため、「ジャンニ・スキッキ」が最後の完成作品となりました。

 

 

このオペラは偉大な詩人ダンテの長編叙情詩「新曲」にほんの僅かに登場する人物=ジャンニ・スキッキにスポットライトを当てて脚色したもので、大富豪の遺産相続の揉め事を知恵者ジャンニが収め、さらに一計を案じてまんまと自分が高額物件を横取りしてしまうというオペラ・ブッファ(喜劇)。1時間足らずの短い作品(一幕もの)ながら、凝縮された無駄の無いプロットと、プッチーニの聴衆を惹きつけるその素晴らしい音楽の魅力で人気を誇り、ダンテとプッチーニの祖国イタリアをはじめ、現在でも大劇場から小さな舞台まで幅広く上演されています。

 

 

2020年のコロナ禍の直前に初めて演じた自分にとっては新しいレパートリーですが、このオペラは登場人物が多く、どの役も所狭しと舞台上を駆け回りながら短いセンテンスのセリフを歌う(喋る)必要があるので(それ自体が滑稽で喜劇的なのですが)、どのシーンの稽古でもいつもごちゃごちゃした雰囲気でとても楽しかったのを覚えています。なおその時のロール・デビュー(リヌッチョ役)で、テノールの役が無い「修道女アンジェリカ」を除いたプッチーニの11作品中で7役目を、そして3つ目の主演テノール役(=プリモ役。他は「妖精ヴィッリ」のロベルト役と「ラ・ボエーム」のロドルフォ役)をレパートリーに加えることが出来たのも嬉しかったですね。

 

 

24歳の青年リヌッチョが歌うアリア『フィレンツェは花咲く木のように  Firenze è come un albero fiorito』は、遺産相続が紛糾し手詰まりになった親族たちに向かって、このオペラの舞台であるフィレンツェの美しい街並みや歴史を称えながら、「解決のためには田舎者でクセのある男だが誰よりも知恵のあるジャンニ・スキッキの力を借りよう」と強く勧める場面です。実はリヌッチョはジャンニの一人娘ラウレッタと恋仲でお互い結婚を望んでいるのですが、父親のジャンニが許さないでいるため(親族たちとも険悪な間柄)、この機会にうまく懐柔させようという目論見もあるのです。アリアの途中でラウレッタの有名なアリア「私の愛しいお父様  O mio babbino caro」の一節が挿入されている所などは、こうしたストーリーの背景をさりげなく匂わせるプッチーニの卓越したセンスを感じさせてくれます。

 

 

先述した歌曲と同様、こちらも2分程度の短い曲ですが、珍しいことにオペラアリアの定番である”歌詞の繰り返し”が一切無いため台詞(=歌詞)の量が大変多く、フィレンツェの観光名所の固有名詞が大量に出てくるので、発音やフレーズのさばき方も難しい箇所がたくさんあります。本番ではそのめくるめくイタリア語の歌詞の色彩を楽しんでもらえたら嬉しいですし、何より大切な人との愛のために夢中でみんなを説得するリヌッチョ青年のエネルギッシュな姿が表現出来るよう、頑張って歌いたいと思います!(結構キツい曲なんです…苦笑)

 

 

 

(歌詞)

フィレンツェはまるでシニョーリ広場で幹や葉を持つ花咲く木のようで、

澄みきった肥沃な谷間から強くて新しい根をもたらすのです!

そしてフィレンツェは芽を吹き出し

堅固な宮廷群や細長い塔たちは星に向かって立ち登るのです!

 

アルノ川は、河口に流れる前に、

サンタ・クローチェ広場に口付けしながら歌い、

そこに小さな川たちが一斉に下り落ちるその歌は

かくも甘く大きく鳴り響くのです!

そうしてフィレンツェをさらに豊かに光り輝かせるために

賢き人たちが芸術や学問に向けてこの地を訪れて来たのです!!

 

エルサの谷はお城に向かって下り、

美しい塔を作るために彫刻家アルノルフォを招いています!

そして森に覆われたムジェッロの地からは建築家ジョットを、

さらに勇気ある商人メディチ家を招くのです!

 

ちっぽけな憎しみや腹いせはやめにしましょう!

新奇なる人、ジャンニ・スキッキに万歳!

 

 

 

 

(※写真右上:このアリアでリヌッチョが歌い上げるフィレンツェの街並み。ジョットの塔やアルノ川も見える。  写真右下:歌手がオペラ全曲に取り組む時に使うピアノヴォーカルスコア。色んな出版社があるがこれはリコルディ版の表紙で、描かれているのは主人公ジャンニ・スキッキ。メディチ支配の時代の赤い服と帽子をまとっている。)