リサイタルへの誘(いざない) 〜5/18〜

前半の真ん中で一曲、秀平雄二さんのピアノ・ソロをお聴き頂きます!

 

 

ロッシーニがその死の直前の10年間に作曲した「老いの過ち  Péché de vieillesse」は、声楽曲、室内楽曲、ピアノなど全14巻、150曲に及ぶ膨大な作品集です。それらはロッシーニのパリの自宅サロンで限られた招待客を対象とした私的な空間(「土曜日の音楽の夕べ」と題された、ロッシーニ主催のホームコンサート及び音楽家や文化人の社交の場)で発表され、楽譜は出版されることなく「門外不出」とされていたそうです。(近年になってロッシーニ財団により収集、校訂され出版されています。)

 

 

多くの作品には70歳前後の「老いた」ロッシーニによる実験的、風刺的な色合いも強く反映され、その音楽のスタイルは祖国イタリアというよりも、当時生活の拠点としていた世界の首都・パリに代表されるフランス的(エスプリ)なものを感じさせてくれます。事実、「土曜日の音楽の夕べ」に訪れた招待客中には、のちのフランス音楽界を担う多くの若い作曲家(ドビュッシー、サン=サーンス、ビゼー、サティ、サラサーテなど)も含まれており、彼らが花開かせたフランス音楽の芸術にはロッシーニの影響もあったのではないでしょうか。

 

 

この『小カプリス(オッフェンバック風)』も、当時パリを中心に流行していた新しい人気作曲家の軽薄な音楽やカンカン(オッフェンバックの代表作「天国と地獄」の音楽)への揶揄でもあり痛烈な皮肉とも言えるでしょう。しかしながら、決して時代の寵児の才能への嫉妬や蔑(さげす)みではなく、まるでサロンの客たちに「ほら諸君、最近のパリの流行りの音楽は、こういう風なんだろう?」とシニカルに微笑みながらピアノを弾く老ロッシーニの姿が浮かぶようです。

 

 

ロッシーニ自身、自分のピアノの腕前を「四流」と自虐的に評していますが(この作曲家らしい言い回しですね!)、もちろんプロ並みの実力だったことはこの曲を聴くだけでも証明されるでしょう。単なる華やかな曲想というだけに留まらず、鍵盤を片手の2本の指で滑らせるグリッサンドの奏法やわざとらしい不協和音の使用など、演奏者にとってもウィットに富んだ刺激的な作品となっています。

 

 

「カプリス Caprice」は「奇想曲」のフランス語。”奇想天外”な一曲を、どうぞお楽しみ下さい!(秀平さんご自身による選曲です。)

 

 

 

(※写真右上:可愛らしいイラスト。楽譜の散らかったピアノの前で、片手にワイングラス、テーブルには食べ物、壁には若かりし自分の肖像画…成功者として悠々自適なロッシーニの日常は、きっとこんな感じ?  写真右下:『小カプリス(オッフェンバック風)』のピアノの楽譜。)