リサイタルへの誘(いざない) 〜2/18〜

リサイタル2曲目は、歌劇「後宮からの逃走」の美しいアリアです。

 

 

このオペラは「ジングシュピール Singspiel」と呼ばれる形式で作られていて、アリアや重唱などの音楽と音楽の間が通常のレチタティーヴォ(チェンバロやオーケストラなどによる和音進行の伴奏の上で、会話や心情を話すように歌われる部分。)ではなく、完全な”セリフ”で繋がれています。同じ分野のオペラには「魔笛」や「魔弾の射手」などがあり、厳密にはジングシュピールではありませんが、セリフを伴う舞台形式の作品としてドニゼッティ作曲の「連隊の娘」やビゼー作曲の「カルメン」などがよく知られています。またジングシュピールは基本的には喜劇の作品を扱うことから、後年のオペレッタやミュージカル(どちらもセリフと音楽の両要素で構成されています)の元になったと紹介されることもあるようです。オペラ歌手やミュージカルの役者さんはセリフの腕前も磨いておかないといけないようですね!(笑)

 

 

モーツァルト26歳のジングシュピール作品「後宮からの逃走」(または「後宮からの誘拐」)は、若い青年ベルモンテがトルコの太守の後宮(ハーレム)に囚われた恋人を救い出すというストーリーで、キャラクターの喜劇的な表現やハラハラドキドキの脱出劇であること、トルコのエキゾチックな異国文化が反映されていることなどから、子供から大人まで楽しめる娯楽性の高い作品として今でも世界中で上演されています。

 

 

一方で音楽は高い芸術性を備えており、特に今回歌うベルモンテのアリア『あなたの力を頼りに  Ich baue ganz auf deine stärke』は作品全曲の中でも、とりわけ美しい旋律と展開される音形の表情の豊かさが際立った珠玉のアリアだと思います。ベルモンテ役には4つのアリアが与えられていますが、個人的にはこのアリアが一番好きですね!

 

 

歌われる場面はオペラの最終第三幕、敵役であるトルコ太守の後宮のすぐ外。静まり返った夜更けに、いよいよこれから恋人を救出する作戦開始という時、従者が宮殿の周りを偵察しに行った間にベルモンテは一人残り、これから始まる救出劇への不安(見つかると太守に殺されてしまう!)を愛の力で乗り越えようと、自分を励ますかのように歌います。

 

 

曲は全体に高く幅広い音域を持ち、アジリタ(細かい音符を素早く歌う唱法)、長いブレスコントロールなど様々な歌唱技術が必要ですが、それ以上に、暗闇の中で静かに恋心を燃やすベルモンテの心情を表した純粋で抒情的な旋律美を大切に歌ってみたいと思います。

 

 

“愛の力を頼りに…”、素敵な言葉ですね!

 

 

 

(歌詞)

私はあなたの強さを頼りにしている、信じているのだ、

おお愛よ、あなたの力を!

 

ああ!なぜなら今まであなたによって

成し遂げられなかった事は無いのだから。

 

世界中で不可能と思える事も

愛によって成就するのだ。

 

 

 

(※写真右上:有名な映画「アマデウス」のワンシーン。<皇帝から「音符の数が多過ぎるのでは?」と言われたモーツァルトは「いいえ皇帝閣下。必要な音符しか書いていません。」と返答した。>という有名なエピソードがありますが、この時皇帝が指摘した曲が「後宮からの逃走」と言われています。 右下:アリアの途中部分の楽譜。)