追悼:Mirella Freni

イタリアの名ソプラノ、ミレッラ・フレーニが2/9に亡くなりました。

 

 

映画界やプロ野球界も往年のスター俳優、スター選手の訃報が立て続けに聞かれていますが、オペラ界もここ数年はビッグネームの世界的名歌手が亡くなるニュースが続く中、今回のミレッラ・フレーニ(1935年生まれ)の死去はとりわけショックを受けました。というのも、私が2007〜2008年に在籍したスカラ座音楽院オペラ研修所で当時彼女は客員指導者としてソリストの研修生を指導されていて、私もそのレッスンを聴講見学することができ、わずかな時間ではあったものの、自分にとっては決して忘れることの出来ない”直接会話をしたことがある大歌手”だからです。

 

 

テノールを勉強する者にとってのパヴァロッティと同じくソプラノの多くの人にとって、イタリア物を勉強する時に「まずこの歌手から聞いてごらんなさい」と勧められることの多い、まさに”ソプラノ入門”のような存在がフレーニではないでしょうか。声質的にも音楽的にもクセが無く、いわば教科書的、模範的なイタリアオペラの様式を体現するフレーニの歌唱は誰からも支持され、熱狂的なファンはあっても、フレーニのや歌唱が苦手な人は自分の周りで聞いたことがありませんでした。本格的な国際的活躍を始めた27,8歳の頃の彼女のいくつかのライブCD音源からは既に声楽的完成度の高さをうかがい知ることができ、それが30年以上のキャリアを通して保持され続けたことは他の多くのソプラノとは一線を画すフレーニならではの功績、芸術の賜物だと思います。(なお1999年、フレーニ64歳の時には藤原歌劇団本公演に、彼女の最も有名なレパートリーである「ラ・ボエーム」のミミ役で出演しています!)

 

 

スカラ座研修所のレッスンでは、世界中から集まった若く優秀な歌手たちにも世界的プリマドンナの視点から容赦なく厳しい言葉をかけていましたが、とにかく”声を前に響かせなさい”という教えが印象に残っています。「あなたの声は素晴らしいわ。でも残念ね、今のままでは劇場ではきっと何も聴こえないわ。」…自分が直接レッスンを受けていたら泣いちゃいそうですが、世界から集まった声自慢の若者たちも、フレーニ先生に言われたらみんな返す言葉がありませんでしたね。

 

 

私が唯一会話させてもらった内容は「フレーニ先生、これまでたくさんのテノールと共演されて、誰が一番”いい声”でしたか?」というものでしたが、彼女はジーリやコレルリ、パヴァロッティなどのテノールの名前を挙げ、でも最後に「…でもそうね、スカラ座でデビューした頃の若い時のホセ・カレーラスの声は本当に美しかった(素晴らしかった)。忘れ難いものだったわ。(Mi era indimenticabile)」と仰っていました。ちなみに彼女の喋る声は私より遥かに低い音域だったので驚いたと同時に、正しい発声のヒントとして普段の喋る声にも興味を持つことのきっかけとなりました。

 

 

声の国イタリア、オペラや歌を”声”で表現するイタリアを代表する名歌手のご冥福を心からお祈りします。

 

 

(※写真は1964年=30歳頃の「ラ・ボエーム」より。テノールのジャンニ・ライモンディと。)