キャストご紹介⑥(完)

オオトリはやはり主役のこの方、”何でも屋”のフィガロ様です!

 

ロッシーニが初演に際し、先輩作曲家パイジエッロの同名オペラ「セビリアの理髪師」との差別化のために題名に”「無益な用心」または「アルマヴィーヴァ」”との副題を付けた事実はあるものの、また作品全編で見た時の登場シーンの多さと最終場面に大アリアがある事から実質の主役は伯爵との見解もあるものの、このオペラの原作題名は「セビリアの理髪師」(ボーマルシェ著)であり、もちろん今回の日生オペラのタイトルも「セビリアの理髪師」、つまり理髪師のフィガロが主役としてカーテンコールの最後に登場します。

 

 

この街でフィガロは理髪師(※余談ですが、題名を簡略化する時日本では「セビリア」と呼ぶのですが、イタリアでは「Barbiere(バルビエーレ)」と呼ばれます)の本業の散髪はもちろん、カツラやヒゲの手入れ、薬品の取り扱い、歯医者や手紙の受け渡しの役目などを一手に引き受け、夜にはギターを弾いて恋の手助けをしたり男女の仲を取り持ったりと、まさに”万屋(よろずや)”といったポジションで誰からも愛される存在です。いつも片方の眉毛と口角を上げて、腕組みしながら顎を撫でつつ相手と交渉の会話を弾ませ、駆け引き上手で”お金の旨味”に敏感で、それでいて愛嬌があって人気者…いかにもラテン系な香りのする若者ですね。

 

 

勝手なイメージですが、伯爵を演じる上でフィガロとのコンビで頭をよぎるのが”信長と秀吉”の主従関係です。

 

 

目的達成のために時に強引にでもミッションを貫徹する行動力、うつけ者の名のとおり時に悪ふざけや扮装も厭わない好奇心旺盛な面など、特に大アリア(より伯爵の”強さ””絶対的な力の顕示”が強調されます)が含まれる上演では伯爵に信長の性格が重なるように感じます。

 

 

同じくフィガロも、秀吉の機転が利く頭の良さ、愛嬌と人当たりの良さに加え弁が達者なことから周りから人気がある所、ピンチの時もポジティブな思考で常に前向きな性格、など随所に重なる部分を感じますし、なによりも2人の距離感や信頼関係が「特別なもの」であることを伺わせる台詞や場面において、信長・秀吉コンビから大きなインスピレーションを与えてもらっています。伯爵を演じながら、「サルめ、またうまいことを言うわい!」の心境です!(笑)

 

 

そのフィガロを歌われるのは青山貴さん。声楽界の方なら誰もがご存知の、この世代のバリトンでいま最もご活躍されている方です。イタリアでのコレペティ(発音や音楽全般を学ぶレッスン)の先生が同じ”同門”だと昨年頃に知ってから親しくお話させて頂くようになりました。意外にもフィガロは初役だそうですが、リハーサル当初からゲネプロに至るまで抜群の声で歌い続けられ、本番でもそのブロンズの輝かしい響きで劇場を満たして下さること間違いありません。どうぞ皆さんこの機会をお聴き逃しなく!!

 

 

ある日のリハーサル中に演出家から「自分の好きな食べ物を想像してごらん、例えばなに?」と聞かれた時に「…ジャガイモ…」と照れながらお返事された時の稽古場の爆笑の記憶は、青山さんの素敵なご性格の一面をいつまでもみんなの心に残してくれると思います(笑)。まさに人気者のフィガロそのままに、舞台上でも共演者全員から厚い信頼を捧げられている青山さんの奮闘ぶりにどうぞご期待下さい!

 

(完)