まえがき①~10/2「サロンの魅力」~

10月2日(木)のサロンコンサートに向けて、演奏予定の作品をご紹介します(全3回)。

 

まずはチラシにも一番上に掲載されている「ドニゼッティ ニ重唱歌曲集」のコーナー。

 

 

「愛の妙薬」「ランメルモールのルチア」などで知られるドニゼッティは、イタリア北部の丘の街・ベルガモの出身。没後160年以上たった今も生家が残されている大作曲家です(※写真右)。生涯に70以上のオペラを作りましたが、ヴェルディが28、プッチーニが12、ロッシーニでも40程度なので、その多作家ぶりは他の作曲家と比べても抜きん出ています。しかしその数の割には頻繁に上演される有名作品が少ないことから、”打率”の低い作曲家としても知られています。(逆に、オペラ界の”イチロー”(※高打率)はやっぱりプッチーニでしょうね!)

 

 

またドニゼッティはオペラだけでなく、いわゆる歌曲または室内声楽曲(イタリアでMusica da camera[室内用音楽]、Musica da salotto[サロン用音楽]などと呼ばれる分野)の作品もたくさん作曲しましたが、残念ながらこちらも多作の割にはそれほど演奏される機会も多いとは言えず、同時代に活躍したベッリーニの歌曲群と比べてもかなり劣勢なようです……

 

 

でもドニゼッティは当時イタリアの、フランスの、あるいはヨーロッパ全体のオペラ界で間違いなく重要な作曲家の一人でしたし、ヨーロッパ中の歌劇場でドニゼッティの作品が常に上演され続けました。なにより当時、後世の音楽研究家からオペラ史上で最高水準だったと評される高い歌唱技術を身に付けた歌手たちが隆盛を極める中、ドニゼッティはその超一流歌手たちにオペラのアリアや重要な役柄を与えると同時に、歌曲作品も多く献呈しています。作曲家と一流歌手たちとの信頼関係が密接であったことの証とも言えるでしょうか。

 

 

カルーゾ以前の”テノールの王”・ルビーニをはじめ、史上初の”胸声のド”で有名なデュプレ、ロッシーニの愛弟子イヴァノフ、タンブリーニ、グリージやラブラシュ……今回使用した楽譜に収められているだけでも、当時の超有名歌手の名前がズラリ目白押しなのです!!(※写真左は楽譜表紙。Ricordi出版。)

 

 

[余談ですが、上記の当時のスター歌手たちの圧倒的な歌唱力・歌唱技術によって、ロッシーニやベッリーニ、そしてドニゼッティらの多くの作品が初演・再演され、全ヨーロッパにイタリアオペラの作曲家と歌手の優位性を知らしめたわけですが、反面、その超絶技巧を含むあまりの難度の高さゆえに彼ら本人または同等のレベルの者以外には容易に演奏できず、彼らの衰退や引退と同時にその多くの作品が歌劇場のレパートリーから消えていきました。1970年頃からのペーザロのロッシーニ・オペラ・フェスティヴァルに代表される、消えた作品の復活上演の動きは作品の再評価を促すと同時に、当時の高い歌唱技術の復興(「ルネサンス」)を目指すものでもあるのです(と、ロッシーニ研究の権威、A.ゼッダ先生が仰っていました!)。]

 

 

ベルカントオペラのレパートリーを勉強する時によく聞く当時のスター歌手たちに書いた珠玉の作品を、今回はその中でも二重唱に絞って、岡本さんと二人で歌ってみたいと思います。

 

 

 

 

こうして当日のプログラムを事前にある程度紹介できるのも自主公演ならでは!もちろん個々の曲名を知るのは当日の「お楽しみ」ですが、こうして前もって選曲の経緯や理由などをご紹介することでもし、自分の愛する作品や作曲家にご興味を持ってお客様にご来場頂けるならなお嬉しいですね。岡本さんとの男声同士によるドニゼッティの世界、どうぞお楽しみに!

 

(続く)