祭のあとで~その6~(完)

2夜連続コンサート最後のプログラムは、『オリー伯爵』より第2幕終盤の3重唱。

好色なオリー伯爵(テノール)は、城の主が留守の間に意中のご婦人アデーレ(ソプラノ)に言い寄ろうと、修道女(シスター)に変装して城に忍び込む。一方、オリー伯爵の小姓のイゾリエ(メゾ・ソプラノ/ズボン役)も密かにアデーレに恋焦がれていて、主人であるオリーからなんとか彼女の貞節を守ろうと、オリーに見つからないようこっそりとアデーレのベッドに身を伏せておいて、暗闇の中忍び込んできたオリーはアデーレと間違えてイゾリエの体を求めてしまう……というなんともおかしな場面。

 

 

修道女=女性と言うことで、ここでも主役のテノールは声色を変えて歌うわけですが、特にこの場面の音楽が大変美しくて(朝岡さんも「この曲がやりたくてこのコンサートを企画した」と言うほどの名場面です)、コメディー劇の視覚的喜劇性と、甘美で陶酔的な音楽の聴覚的神秘性のバランスをうまく表現するのがとても難しかったですね。

 

 

演技的な仕上げが本番当日のゲネプロでも完成に至らず、結果的に本番ぶっつけみたいな部分もあって緊張感も有りましたが(注:お芝居的にはベッドの中で”3すくみ”のようなクンズホグレツになる必要があるので、手を握る約束事とか動きの導線などややこしい場面でした)、共演の女性お二人(天羽明惠さん&小野和歌子さん)に上手く引っ張られて、いざとなると楽しく動いて歌うことが出来たように思います。大きな拍手も嬉しかったですね!

 

 

 

銀座のヤマハホールは音響が良いので、ダイナミクスのレンジ(音量の強弱)、特に1000人以上収容の大ホールでは使えない弱音(ppやだんだん音量を弱めていくディミヌエンドなど)を効果的に使って歌うよう心がけましたが、声帯や息の支えをより繊細にコントロールする必要がある上、色んな役柄で早着替え&ドタバタ芝居もあったりで、やはり2日目最後ともなると疲労もあったように思います。この曲のあとのアンコール(ロッシーニの歌曲より”La danza「踊り」”全員でリレーして歌いました!)は完全にガス欠しちゃいました、共演者の皆さんがいて良かった~(笑)

 

 

 

 

楽しかった「ロッシーニ祭」は終わってしまいました。

 

イタリア留学時代にロッシーニに出会って、RossiniOperaFestivalでの忘れがたい『ランスへの旅』や、フェニーチェ歌劇場でのロッシーニガラコンサートなど、幸運にも(本当に!)大きな舞台で歌わせて頂く機会や、ロッシーニ界の神様A.ゼッダ先生やロッシーニの申し子・F.D.フローレスはじめその道のスペシャリストとふれあった思い出にも恵まれて、意気揚々と「さぁ、日本でもロッシーニ歌うぞ~」なんて帰国して早4年。

 

 

こうして頭のてっぺんから足の先まで、ロッシーニの作品に集中して取り組めたコンサートは”意外にも”初めてでした。

 

 

帰国してからはやはり気が付けばカンツォーネ、「第九」、日本の歌などが主なレパートリーとなり、テクニック的にもロッシーニとは相容れないジャンルの作品を歌うことが多くなればなるほど、楽しく歌えていたロッシーニの曲は次第に自分の声(のど)にとって「不安」になったり「負担」になったりしていました。

 

キャリアを積めば積むほど演奏会場は大きくなり、大音量のオーケストラとの共演も増え、でもせっかくの依頼に出来るだけ応えたいと、自分には音域が低すぎる創作ものや日本の歌を歌う機会も増えてきました。

 

 

「世界的なロッシーニ歌いと呼ばれる歌手たちの多くがそのロッシーニの世界から外へなかなかレパートリーを広げようとしないのも、せっかくロッシーニが歌える声楽技術をなるべく失いたくないからだ。」という意見を聞いたことがありますが、自分なんかではレベルは全然違いますが、でもよく分かる気がしていました。(彼らは400人の合唱を背負って「第九」を歌ったりはしません(笑))

 

 

そんな中こうして、コンサートに向けて一定期間ロッシーニの楽曲(または自分の声にジャストなレパートリー)だけを練習すると、声や体が次第に本来の正しい状態に戻っていくのが感じられるほどでした。

 

 

もちろん理屈や事実としては認識していても、実際その時間や機会を強引にでも「作らない」限り、本番の舞台をはじめ大学でのレッスンや合唱の指導も含め、「常に完全に自分のレパートリーだけ歌う」ということは想像以上に難しいことを帰国してから痛感していました。そう、留学中はほぼ完全にそういう環境でいれたわけです。(ちなみにこのコンサートに調整するため、約一週間前からレッスンや指導も含め、他の声を出す一切の仕事はキャンセルして東京に入りました。)

 

 

 

こうした意味でも、今回自分にとって大変貴重な機会を与えてくれた朝岡さんと天羽さんに心から感謝です。お誘い頂いて本当にありがとうございました。

 

 

 

 

蛇足ながら、ロッシーニ作品のオペラでは2010年に東京文化会館で『タンクレーディ』(A.ゼッダ指揮)のアルジーリオ役を演じたきりでしたが、来年はどうやらオペラでもロッシーニ作品に出会えそうです。それも複数回!公式発表までは伏せておかないといけませんが、今からもうワクワクしています。このホームページで必ずご案内しますのでどうぞお楽しみに!!

 

(完)